建設業許可を受ける要件の一つに「請負契約を履行するに足る財産的基礎または金銭的信用を有していること」が求められています。
一般的にどのような事業であっても言えることと思いますが、建設業もまた安定した経営を実現するためには一定の資金の確保というのは非常に重要な課題となります。
契約金額が高額になる程に先行する支出は高額になりやすく、また不履行が生じた場合の損失も大きくなる傾向が見られます。
つまり、規模の大きな工事を扱う程により高い経済的な水準を求める必要があると考えることができるのです。
このことより一般建設業と特定建設業では異なる要件が定められていることに注意が必要です。
(cf:専任技術者の要件は異なりますが、経営業務の管理責任者の要件は異なりません)
既に存在する法人にあっては申請時直前の決算期における財務諸表において、新たに設立した法人にあっては創業時における財務諸表において以下の要件を満たしている必要があります。
なお、この要件に関しては許可を取得する際に判断されるものであり、取得後に要件を満たさなくなったからといって直ちに許可の効力に影響を及ぼすものではありません。
「一般建設業」の許可を受ける場合の要件は?(建設業法第7条第4号)
次のいずれかに該当する必要があります。
① 自己資本の額が500万円以上あること
自己資本の額及びその算出方法は次のとおりです。
法人の場合は、貸借対照表の純資産合計の額を指します。
法人の自己資本の額=純資産合計
個人の場合は、期首資本金、事業主借(※1)及び事業主利益の合計額から事業主貸(※2)の額を控除した額に負債の部に計上されている利益留保性の引当金及び準備金の額を加えた額を指します。
個人の自己資本の額=(期首資本金+事業主借+事業主利益)-事業主貸+(利益留保性の引当金+準備金)
(※1、2)事業主貸・借のことを事業主勘定といいます。事業主勘定は個人事業特有のもので、法人には使われない勘定科目です。同一人物である「個人事業上の立場における自分」と「私生活上の立場における自分」を区別するために使用します。
(※1)事業主借とは…個人用の資金を事業用の資金として使用する場合の勘定科目です。
例としては、個人の資金を事業の運転資金として使用する場合があります。
(※2)事業主貸とは…事業用の資金を個人用の資金として使用する場合の勘定科目です。
例としては、事業によって得た資金を個人の生活費として使用する場合があります。
② 500万円以上の資金を調達する能力を有すること
資金を調達する能力とは、次のようなことを指します。
- 法人又は個人(個人事業主の場合)の取引する金融機関に預貯金として500万円以上の資金を有しているかどうか
- 資産(所有する不動産等)を担保とすること等により金融機関から500万円以上の資金につき融資を受けることができるかどうか
取引金融機関の預貯金についての残高証明書や融資可能証明書等により判断を求めることとなります。
なお、愛知県の場合は次のように示されています。
- 取引金融機関の預貯金についての500万円以上の残高証明書は、基準日が申請直前の2週間以内(初日算入)のものであること
- 取引金融機関の融資可能証明書は、発行日が申請直前の2週間以内(初日算入)のものであること
③ 許可申請直前の過去5年間許可を受けて継続して営業した実績を有すること
申請する内容が許可「更新」の場合に該当します。
①又は②の500万円以上の要件を満たす必要がないので事業者様にとって手続き上の負担が軽いことを意味します。
「特定建設業」の許可を受ける場合の要件は?(建設業法第15条第3号)
次のすべてに該当する必要があります。
① 欠損の額が資本金の額の20パーセントを超えていないこと
欠損の額及びその算出方法は次のとおりです。
法人の場合は、貸借対照表の繰越利益剰余金がマイナスであるときにその額が資本剰余金、利益準備金及びその他の利益剰余金(繰越利益剰余金を除く)の合計額を上回る額を指します。
法人の欠損の額=繰越利益剰余金-[資本剰余金+利益準備金+その他の利益剰余金(繰越利益剰余金を除く)]…A
個人の場合は、事業主損失が事業主借の額から事業主貸の額を控除した額に負債の部に計上されている利益留保性の引当金及び準備金を加えた額を上回る額を指します。
個人の欠損の額=事業主損失-(事業主借-事業主貸)+(利益留保性の引当金+準備金)…B
なお、事業主勘定(事業主貸・借)については「一般建設業」①の※印1及び2の箇所をご覧ください。
要件の一つとして上で求めた欠損の額が資本金の額の20%を超えていないことが求められていますので、次の式を満たす必要があります。
A又はB≦資本金×20%
② 流動比率が75パーセント以上であること
流動比率とは流動負債に対する流動資産の比率のことを指します。
簡単に表せば、流動負債とは1年以内に返済を予定する負債のことを指し、流動資産とは1年以内に資金化を予定する資産のことを指します。
つまり、流動比率とは事業における短期的な資金繰り能力を表す指標なのです。
流動比率の算出方法は次のとおりです。
流動比率=流動資産÷流動負債×100…C
要件の一つとして上で求めた流動比率が75%以上であることが求められていますので、次の式を満たす必要があります。
C≧75%
なお、許可要件とは直接関係のない話しですが一般的に、流動比率は高ければ高い程良いとされています。
但し、1年以内の資金化が疑問視されるような在庫や短期貸付により流動資産が膨れ上がっている等、その内容によっては流動比率が高くても良いとは言えない状況もありますのでご注意下さい。
③ 資本金の額が2000万円以上であること
資本金の額は次のとおりです。
株式会社の場合は、払込資本金を指します。
特例有限会社の場合は、資本の総額を指します。
持分(合名・合資・合同)会社の場合は、出資金額を指します。
個人の場合は、期首資本金を指します。
なお、最終の事業年度に係る貸借対照表において資本金の要件を満たさなかった場合で、その後増資を行うことによって要件を満たすこととなった場合には、資本金の要件は満たしているものとして扱われます。
④自己資本の額が4000万円以上であること
自己資本については「一般建設業」①の箇所をご覧ください。
以下は関連条文です。
建設業法第7条第4号 請負契約(第3条第1項ただし書の政令で定める軽微な建設工事に係るものを除く。)を履行するに足りる財産的基礎又は金銭的信用を有しないことが明らかな者でないこと。
建設業法第15条第3号 発注者との間の請負契約で、その請負代金の額が政令で定める金額以上であるものを履行するに足りる財産的基礎を有すること。