営業所の専任技術者との比較
建設業許可を受けるためには「営業所」ごとに「専任技術者」を配置することが要件とされています。
そして、この「専任技術者」は原則として建設工事の請負契約の締結に関する技術面でのサポート(具体的には見積り、工法検討、その他契約内容の履行に関しての注文者への技術的な説明等)業務に「営業所」に常勤して従事する必要があります。
(専任技術者についての詳細は「専任技術者とは?(指定建設業?)」をご覧ください)
一方で、建設業法には建設業許可を受ける要件とは別に、営業所ではなく請負契約に係る工事の施工を現に行っている「工事現場」に、その施工を管理及び監督する技術者を配置しなければならない旨の定めがあります。
これは高度な専門性と技術力を有する技術者を「工事現場」に配置することで不良施工や一括下請等の不正行為から発注者を保護すること、及び適正な建設工事の施工実現をとおした信頼に値する企業育成のための環境整備等を目的とする制度です。
この「工事現場」に配置しなければならない技術者を「主任技術者」又は「監理技術者」と言います。
これらの技術者(主任技術者及び監理技術者)は、具体的には施工計画の作成、工程管理及び工事目的物の品質確保等の技術上の管理並びに従事者への技術的な指導監督等を行います。
主任技術者
建設業法第26条第1項は建設業者が請負契約に係る建設工事を施工するには、その「工事現場」に施工上の管理者となる「主任技術者」を必ず配置しなければならない旨定めています。
なお、例え請負金額が500万円(建築一式工事では1500万円)未満の軽微な建設工事であっても主任技術者の配置は必要となりますのでご注意下さい。
建設業法第26条第1項 建設業者は、その請け負つた建設工事を施工するときは、当該建設工事に関し第7条第2号イ、ロ又はハに該当する者で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「主任技術者」という。)を置かなければならない。
上に定める「第7条第2号イ、ロ又はハに該当する者」とは、一般建設業における専任技術者として求められる知識経験等に係る要件を満たす者を指しています。(専任技術者についての詳細は「専任技術者とは?(指定建設業?)」をご覧ください)
監理技術者
建設業法第26条第2項は建設業者が発注者と直接(元請として)請負契約を交わし、その契約に係る建設工事を施工する場合に、その請負金額の内4000万円(建築一式工事では6000万円)以上を下請に出す場合には、その「工事現場」には施工上の管理者となる「主任技術者」のかわりに「監理技術者」を配置しなければならない旨定めています。
上述のように下請契約に係る金額が高額な場合に求められる監理技術者は、建設工事施工にあたる全専門工事業者等を指導監督し適切に管理する総合的な企画力及び指導力を要求されるため、主任技術者に比べてより高度な技術力が必要となります。
建設業法第26条第2項 発注者から直接建設工事を請け負つた特定建設業者は、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が二以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が第3条第1項第2号の政令で定める金額以上になる場合においては、前項の規定にかかわらず、当該建設工事に関し第15条第2号イ、ロ又はハに該当する者(当該建設工事に係る建設業が指定建設業である場合にあつては、同号イに該当する者又は同号ハの規定により国土交通大臣が同号イに掲げる者と同等以上の能力を有するものと認定した者)で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「監理技術者」という。)を置かなければならない。
上に定める「第15条第2号イ、ロ又はハに該当する者」とは、特定建設業における専任技術者として求められる知識経験等に係る要件を満たす者を指しています。(専任技術者についての詳細は「専任技術者とは?(指定建設業?)」をご覧ください)
主任技術者から監理技術者へ変更する必要性が生じることも…
元請業者が発注者と直接交わした請負契約に係る建設工事の内、下請に出していた金額が4000万円(建築一式工事の場合は6000万円)未満であったため、その工事現場には「主任技術者」を配置していた場合、途中から工事内容に大幅な変更が生じ、下請に出していた金額が先の金額(4000万円(建築一式工事の場合は6000万円))以上となった場合には、その工事現場には「主任技術者」に代えて「監理技術者」を配置する必要が生じます。
但し、上述のケースで予め下請金額の増額が想定される場合等では、建設工事の施工当初から「監理技術者になり得る資格を有する者」を配置する必要があります。
つまり、元請業者の立場としては、施工体制の整備や監理技術者の適正な配置等の建設工事施工上の判断を行うため当初の段階で工事外注計画等を作成し、また、工事の進捗状況に応じて先の計画を適宜見直すことで下請代金等を可能な限り正確に把握しておくことが求められます。
直接的かつ恒常的な雇用関係が必要!
請負業者と主任技術者又は監理技術者の雇用関係は、「直接的」かつ「恒常的」な関係を求められます。
「直接的」な関係とは、第三者の介入する余地のない雇用に係る権利義務(雇用契約上の賃金及び労働時間に係る権利義務等)が認められる関係を指します。
「恒常的」な関係とは、使用者の責任のもと、その技術力を熟知した技術者を一定期間の間に一定時間以上勤務させることが可能な環境が担保されており、組織力をもってその技術者による工事管理をサポートできる体制が整っている関係を指します。
よって、出向者や派遣社員等の「直接的」な雇用関係を有しない者や一つの工事期間のみの短期雇用者等の「恒常的」な雇用関係を有しない者の場合には上の技術者として工事現場に配置することは認められません。
◎公共工事の場合に求められる雇用関係は少し厳しめ…
元請業者が国や地方公共団体等から直接発注された建設工事(公共工事)を請け負う場合の「専任の主任技術者又は監理技術者」については、「入札申込日」以前に3ヵ月以上の雇用関係にあることが求められます。
(上の「入札申込日」については、指名競争で入札申込を伴わない場合には「入札執行日」また随意契約の場合には「見積書の提出日」と読み替えます)
技術者配置のための確認書類は?
◎「直接的」かつ「恒常的」な雇用関係を確認するための書類は?
配置する技術者の届出と同時に、一般的には所属事業者を確認できる以下のいずれかの書類の写しを提出することとなります。
- 監理技術者資格者証(表裏)
- 健康保険被保険者証
- 住民税特別徴収税額の決定・変更通知書
- 雇用保険者証
◎「技術者の資格」を確認するための書類は?
監理技術者の場合は次の書類の写しとなります。
- 監理技術者資格者証(表裏)
- 監理技術者講習終了証
主任技術者の場合は次の書類の写しとなります。
- 国家資格者等の場合にはその資格証明書等
- 実務経験による技術者の場合にはその経歴書
専任の主任技術者又は監理技術者とは?
建設業法第26条第3項により、建設工事の施工にあたり安全性及び適正性の確保するため、公共性を有する施設(工作物を含む)又は多数者が利用する施設(工作物を含む)に係る重要な建設工事であり、かつ、工事一件の請負契約に係る金額が3500万円(建築一式工事の場合には7000万円)以上のものについては「工事現場」ごとに「専任の主任技術者又は監理技術者」を配置する必要があります。(下請工事であっても必要となります)
なお、ここでいう「専任の技術者」とは、あくまで「工事現場」における「専任の技術者」であって、建設業許可要件の一つである「営業所」における「専任技術者」とは異なります。
◎専任とは…
専任の技術者(主任技術者又は監理技術者)として配置された工事現場以外の工事現場等に係る業務について従事することなく、常時継続的にその配置された工事現場に係る業務にのみ従事することを指します。
つまり、複数の工事現場に係る業務を兼務することは認められません。
また、「営業所の専任技術者」は営業所へ常勤して業務に従事していることが求められていますので、原則として「工事現場の専任の主任技術者又は監理技術者」を兼任するこも認められていません。
但し、専任性が求められていない工事の場合であって、次の全ての要件を満たす場合には「営業所の専任技術者」と「工事現場の主任技術者又は監理技術者」を兼任することも特例として認められます。
- 当該営業所において締結された請負契約に関する建設工事であること
- 工事現場の業務に従事していたとしても実質的に営業所の業務にも従事することができる程に双方の所在地が近接していること
- 工事現場と営業所との間で常時連絡をとることが可能な体制整備がされていること
◎専任性を求められるのは公共工事だけではない!
建設業法第26条第3項に定められた専任性が求められる工事には「多数者が利用する施設(工作物を含む)に係る重要な建設工事」も含まれます。
建設業法第26条第3項 公共性のある施設若しくは工作物又は多数の者が利用する施設若しくは工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるものについては、前2項の規定により置かなければならない主任技術者又は監理技術者は、工事現場ごとに、専任の者でなければならない。
建設業法第26条第3項の「政令で定めるもの」とは建設業法施行令第27条で定めるものを指します。
建設業法施行令第27条 法第26条第3項の政令で定める重要な建設工事は、次の各号のいずれかに該当する建設工事で工事一件の請負代金の額が3500万円(当該建設工事が建築一式工事である場合にあつては、7000万円)以上のものとする。
上の「次の各号」について要約すると以下のとおりです。
- 国又は地方公共団体が注文者である施設又は工作物に関する建設工事
- 鉄道、軌道、索道、道路、橋、護岸、堤防、ダム、河川に関する工作物、砂防用工作物、飛行場、港湾施設、漁港施設、運河、上水道又は下水道及び電気事業用施設(電気事業の用に供する発電、送電、配電又は変電その他の電気施設をいう。)又はガス事業用施設(ガス事業の用に供するガスの製造又は供給のための施設をいう。)に関する建設工事
- 石油パイプライン事業法第5条第2項第2号に規定する事業用施設に関する建設工事
- 電気通信事業法第2条第5号に規定する電気通信事業者(同法第9条第1号に規定する電気通信回線設備を設置するものに限る。)が同条第4号に規定する電気通信事業の用に供する施設に関する建設工事
- 放送法第2条第23号に規定する基幹放送事業者又は同条第24号に規定する基幹放送局提供事業者が同条第1号に規定する放送の用に供する施設(鉄骨造又は鉄筋コンクリート造の塔その他これに類する施設に限る。)に関する建設工事
- 社会福祉法第2条第1項に規定する社会福祉事業の用に供する施設に関する建設工事
- 熱供給事業法第2条第4項に規定する熱供給施設に関する建設工事
- 学校、図書館、美術館、博物館、展示場、病院、診療所、火葬場、畜場、廃棄物処理施設、集会場、公会堂、市場、百貨店、事務所、ホテル、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、公衆浴場、興行場、ダンスホール、神社、寺院、教会、工場、ドック、倉庫、展望塔に関する建設工事
このとおり、根拠条文には個人住宅を除く非常に多くの種類の施設等が定められています。公共工事は一例であることにご注意下さい。